評価センター資料閲覧室

第1回固定資産評価研究大会 基調講演


  固定資産税の基本問題

学習院大学法学部教授  金子 宏


はじめに
 固定資産税は、地方の独自の財源であるという意味でも、市町村にとって安定的な財源であり、非常に大きな税収が毎年もたらされるという点でも大変に重要な租税であります。今後とも地方税の中で基幹的な租税としての役割を担っていくことは、疑いのないところであります。
 あまり論点が拡散するのもどうかと思いまして、本日は三つの点についてお話をしたいと思っております。問題点はいずれも土地を中心として、つまり土地に対する固定資産税を中心としてお話をしたいと思います。
 第1番目の問題点は、固定資産税の性格論であります。第2番目は土地評価のあり方の問題であります。3番目は、ちょっと耳慣れない言葉かもしれませんが、固定資産税における制度の二元性、ないしは二重構造と私は呼びたいと思います。要するに、地方税法の本法で予定されている本則課税と本法附則で定められている負担調整措置の二つの制度が地方税法の中には並存しています。現実には本法附則に基づく負担調整措置による課税が行われているわけであります。このことを二元性とか二重構造とか仮に呼ぶことにいたしたいと思います。それ以外にも、地方税については、例えば不服申立ての手続きでありますとか、どこまで評価を開示すべきかというような、いわゆる最近重要性を増しつつある透明性、トランスパーレンシーとかアカウンタビリティーの問題もございますが、それはまた後でシンポジウムの時間にでもお話する機会があるかと存じます。ここでは先ほど申し上げました三つの点に限ってお話をしたいと考えている次第です。
 最初に2、3お断りをしておかなければなりません。まず第1に、租税法の研究者として私は固定資産税の問題について関心を持ち、研究してまいりましたが、本格的な専門家とはとてもいえないわけであります。そういう意味で私の話には皆様からみて不十分な点が多々あるかと思いますが、そのへんはまた後ほどご教示を賜りたいと思います。
 第2番目に、私がここで述べることはいくつかの点で多くの皆さんの意見とは違っている点があると思います。あるいは、私の勘違いがあるかもしれません。そのへんについては忌憚のないご批判をいただきたいと思います。
 3番目は、研究者の使命は批判にあると私は考えております。ただ、批判の中にも2種類の批判があります。一つは既存の制度や理論を壊すという意味での批判であります。第2番目は、批判の上にたって現在の制度や理論を改革するという意味での批判であります。私の考え方は現在の制度の問題点を、あるいは運用の問題点を指摘しながらよりよい制度や運用を求めるという観点からの話であります。その意味では多くの皆さんと同じ土俵の上に立っていると考えております。そういうようなことをまずお断りします。

1.固定資産税の性格論
 固定資産税の性格論に入っていきたいと思います。これは繰り返すまでもないことですが、地方税法では349条の1項で土地に対して課する固定資産税の課税標準はその土地の基準年度にかかる賦課期日における価格であると規定しています。また、341条の5号では価格とは適正な時価をいうと規定しているわけであります。こういう規定があるにもかかわらず、地方税の専門家の間では従来固定資産税は収益税である、あるいは収益税的な財産税である、したがってその価格は収益還元価格であるべきであるという見解がかなり有力でありました。こういう見解が述べられる背景としては、次に三つの点をあげることができるのではないかと思います。
 第1は、固定資産税は地租を受け継いでいるわけですが、その地租が土地の賃貸価格を課税標準として課される収益税であったということであります。
 第2番目は、固定資産税はシャウプ勧告に基づいて昭和25年の全面的な税制改革の一環として採用されたわけでありますが、そのシャウプ勧告が課税標準である土地と家屋の価格の計算として賃貸価格の見積額を用いていたということであります。シャウプ勧告は当時台帳に登録されていた戦前、昭和11年の賃貸価格を200倍いたしました。当時の賃料は昭和11年のだいたい200倍が相場であったとシャウプ勧告は考えたわけであります。その戦前の賃貸価格を200倍して、さらにそれを5倍することによって土地や家屋の資本価値を算出するということを勧告したわけであります。これは典型的な収益還元法でありますが、これが固定資産税は収益税であるという考え方に強い影響を与えたのではないかと考えられます。
 第3番目は、固定資産税の適用、執行において課税標準が時価を著しく下回る水準に据え置かれてきたということであります。地価の上昇は戦後物価水準の上昇をずっと上回る速度で上昇を続けてきたわけであります。そのために何度も土地の評価を改めるという措置がとられてまいりましたが、それに応じて負担を一挙に高めるということは困難でございます。そこで負担調整措置が採用されて、なだらかに負担が上昇するという措置がとられてきたわけであります。
 収益税説というのは、このような低い評価水準を追認し、正当化するためには好都合な理論であったと考えることができます。たしかに、地租は固定資産税の導入によって廃止されたときには土地の賃貸価格を課税標準としていたわけでありますが、常にそうであったわけではありません。近代税制としての地租は明治14年に導入されましたが、それ以降昭和6年までは地価を課税標準とする財産税でありました。ですから、固定資産税を収益税として仕組むか、それとも財産税として仕組むかということは立法政策の問題であります。したがって、固定資産税の性質を検討するためにはその導入の経緯をもう少し考えてみると必要があると思います。
 先ほども申しましたことの繰り返しになりますが、シャウプ勧告は固定資産税の課税ベースとして賃貸価格の年額、つまりレンタル・バリューのかわりに資本価格、キャピタル・バリューを採用すべきことを勧告したわけであります。資本価格を課税標準とするという考え方から、シャウプ勧告が固定資産税を財産税として構想していたことはほぼ間違いないのではないかと思われます。もっとも、勧告は賃貸価格を基礎として土地の資本価格を算出するということを勧告したわけであります。これは、推測いたしますと、短期間の間に固定資産の資本価格を確定しなければならないという必要性から、一種の便法として、資産の価格はそれが生み出す収益の現在価値に等しいという経済学説にしたがったものではないかと思われます。
 勧告が固定資産税を財産税であると考えていたことはその文章からも明らかであります。先ほど述べたような方法で資本価格を算出した結果は、資産が自由市場で譲渡されるとした場合の価格、ないしは建物を再建築するとした場合のコストとほぼ一致するであろうと述べているわけであります。このことから、シャウプ勧告が固定資産税を財産税であると考えていたとみて間違いないのではないかと思います。
 また、当時日本側でシャウプ使節団と折衝に当たった人々の間でもそういう理解の仕方が一般的でありました。これは奥野誠亮さんや柴田護さんが座談会の中で述べていることですが、「シャウプ使節団は固定資産税を軽度のプロパティー・タックスと考えていたのではないか」というご発言や、「固定資産税はやはりアメリカの制度が基本になっています、アメリカの財産税ですよ」というような発言の中にそれをみることができます。「僕たちは固定資産税と呼ぶけれども英語は財産税、あなたたちは財産税と呼ぶことにしようじゃありませんか」ということで妥協したというようなご発言もあります。そういうような点から言いますと、当時シャウプ使節団と折衝した自治省の人々が財産税であると理解していたのではないかと思われます。
 それでは、なぜ収益税説とかあるいは収益税的財産税だという考え方が繰り返し主張されるのであるのかということであります。恐らく、それは、財産税説をとれば、固定資産税は財産税だという考え方をとれば、固定資産税の負担が固定資産から得られる収益を超過する恐れがある、つまり元本に食い込んでしまう恐れがあるという危惧の念、あるいは逆の面から言いますと、収益税であるとか、収益税的な財産税であるという考え方をとれば税負担を収益の範囲内に抑えることができるという安心感と結びついているのではないかと想像されるわけであります。
 しかし、よく考えてみますと、固定資産税の性質をどう考えるかという問題と、固定資産税の負担がどの程度であるべきかという問題とは論理上別個の問題であります。収益税説とか収益税的財産税説というのはこの二つの別個の問題を論理的に混同しているのではないかと批判することもできると思います。財産税説をとったからといって必ず固定資産税の負担水準が高くなるわけではありません。そこは区別して考える必要があると思います。

2.土地評価のあり方
 そこで、第2の問題として土地評価の問題に移りたいと思います。土地評価のあり方の問題は、固定資産税において固定資産税の性質論と並ぶ重要な問題であります。実は、この二つの問題は密接に関連しあっているとみることもできるわけであります。土地評価のあり方については、類型といたしましては二つの考え方がありうるわけであります。一つは、土地の評価は収益還元法によって行うべきであるという考え方であります。収益還元価格説とでも申しますか、そういう考え方であります。いま一つは、土地の評価はその取引価格、あるいは市場価格、フェア・マーケット・バリューと呼ばれるものでありますが、そういうフェア・マーケット・バリューで行うべきであるという考え方であります。市場価格説とか、取引価格説とかの呼び方をすることができると思います。
 シャウプ勧告では土地の収益還元価格はその資本価格、つまり市場価格に一致するという考え方がとられていたわけであります。オーソドックスな経済学説ではそういう考え方になると思います。しかし、その後のわが国の経済の実態においては、土地神話という言葉が示しておりますように、土地のキャピタルゲインを織り込んで地価が形成されるようになった、あるいは土地騰貴が非常に激しくなったという理由のために両者は多少とも乖離することになりました。多くの地域においては両者は大幅に乖離することになったわけであります。昭和40年代の地価上昇期、昭和60年代から平成初期にかけてのバブル経済の時期にはこの乖離は特に大きかったわけであります。その結果、収益還元価格説と市場価格説とが鋭く対立するという状況が生じたわけであります。
 収益還元価格説は、固定資産税は収益税だという考え方を根拠として主張されることが多いわけであります。その骨子は、固定資産税はその納付のために対象財産の処分を強制するほど重いものであってはならない。その収益の一部をもって賄われるべきであるから、その評価は、資産が生み出す収益を基礎として行うべきであるということにあるかと思います。しかし、これについては厳密に吟味するといろいろな問題があると私は考えております。この点について皆様のご意見をいろいろと伺いたいと思っております。ただ、私は収益還元価格説が絶対的に誤りであるということを言うつもりはありません。収益還元法によって客観的な土地の価格を算出するような努力は絶えず続けられなければならないと考えております。ただし、いまのところ、収益還元法にはいろいろな問題があるのではないかと考えております。
 第1は、市場価格のある土地であっても遊休状態にあって収益を生み出していない場合が多いということであります。これらの土地について収益還元法によって価格を算出するためには、何らかの方法で有効利用に供した場合の標準的収益額を想定する必要があります。この点については最有効利用に供した場合か、それとも通常の有効利用に供した場合かということで標準的な収益額が違ってくるという問題もあります。それは別といたしまして、有効利用に供した場合の標準的な収益額を想定する必要があるわけであります。それは決して容易ではないと思います。つまり、何が有効な利用であり、何が標準的であるかということの判定が困難だからであります。
 それから、自分の居住用に供している、あるいは自分の事業に供している土地については、いわゆる帰属地代、インピューテッド・レント、あるいは帰属収益、インピューテッド・リターンというものを算出する必要があるわけであります。これも同じように、決して容易ではないわけであります。つまり、標準的な収益額を想定することが容易でないのと同じように、帰属地代や帰属収益を算出することは決して容易な作業ではないということになります。
 第2は、同じ地域の類似の土地であっても地代にばらつきがあるということであります。その場合に現実の地代を基礎として収益還元価格を算出いたしますと、土地によって評価が不公平になってしまう、評価がばらついてしまうという問題があります。したがって、公平を維持する、あるいは評価の均衡を維持するためには標準的な収益額を擬制する必要があります。しかし、これは、先ほど第1点で述べたとおり、決して容易なことではないということになります。
 第3番目に、収益還元法自体にもいくつかの問題があるように思います。収益還元法は資産が将来生み出す収益を現在価値に還元する方法でありますが、将来の収益を正確に予測するということは困難であります。そこで、将来も現在と同じ収益が生み出されるという前提を想定せざるを得ないということになります。あるいは、若干収益が増加していくということを想定することも可能かもしれません。それと同時に、将来生じるかもしれないリスクも考慮に入れる必要があると思います。しかし、将来生み出される収益、あるいはリスクを予測するということはなかなか困難なことであります。
 それから、収益還元法のもとでは将来の収益を現在価値に還元するに当たり、どのような還元率を用いるかによって資産の価値は変動いたします。高い還元率を用いますと資産価値は小さくなりますし、低い還元率を用いますと資産価値は大きくなります。実際問題としてはその評価の時点において妥当している標準的な市中金利、公定歩合に若干の加算をした比率を用いるということになると思います。その場合には景気が後退して金利が下がっている時期には評価額が上昇する。逆に、景気が好転して利子率が高くなっている場合には評価額は下落するということになってしまうと思います。換言すれば、税率を変更しない限り、好況期には税負担は減少し、不況期には税負担は増加するということになるのではないか。これは私の勘違いではないと思いますが、何か間違いがありましたら、重要な点ですのでご指摘いただきたいと思います。
 こういうことは納税者にとって酷なことであります。それから、市町村にとっても税収が変動し安定性を欠くということになって、好ましくないわけであります。税制の景気調整機能という観点から見ても国民経済的に好ましくないことであります。
 さらに、そのほかいろいろな問題があります。特につけ加えておきたいことは収益還元法のもとでは評価の不公平と不均衡が生じうるのではないかということであります。収益還元価格の計算の基礎となる現実の収益は、前に申しましたように、ばらつきがあります。また、標準的な収益も客観的に算出しうるものではないと思います。そこで、評価担当官の主観やさじかげんが働きやすいということになります。また、政治的な圧力や配慮によって標準的収益の額にぶれが生じて、結果的に地域的な不公平や不均衡も生ずるということになることがありうると思います。
 こういうような点を考えてみますと、収益還元価格説は実際の制度においては運用が非常に難しいのではないか。また、恣意的になる恐れもあるのではないかと思います。それにもかかわらず収益還元価格説が専門家を含めて多くの人々を魅了してやまないのはなぜであろうかということを考えてみますと、それは収益還元価格説をとった方が結果的には固定資産税の負担水準を低く抑えることに役立つと考えられるためであると私には思われます。たしかに収益還元価格説にそのような側面のあることは否定いたしません。しかし、これは負担水準論の問題でありまして、論理上は評価方法とは別個の問題であります。この場合にも、固定資産税の性質論のところで述べたのと同じような論理的な混同があるのではないかと考えるわけであります。
 市場価格説は財産税説と結びつけて主張されることが多いわけであります。個々の土地の市場価値の認定を客観的、合理的に行うことができるならば、収益還元価格説の弱点を克服する、あるいは大幅に解消することができることになります。つまり、市場価格説のもとではそもそも収益から資産の現在価値を還元するという作業が不必要でありますから、標準的収益の認定も不必要であります。それから、市場価格の定め方いかんによっては評価の過程から恣意を排除して土地相互間の公平と地域間の均衡を確保することができるわけであります。
 平成6年の評価替えのときから公示価格の7割をめどとして土地の評価を行い、それを課税標準とするという制度が採用されました。そして、平成9年の評価替えのときもそういう考え方で評価が行われました。この新しい制度は公示価格という客観的な物差しを用いている点で基本的に妥当な制度であると考えられます。この7割評価の制度ができるまでにはいろいろな紆余曲折がありまして、ご関係の皆様は大変に苦心され、ご苦労をされたことと思います。こういう方向に評価制度が動いてきたということは、固定資産税の制度の改革のためには非常によかったのではないかと私は思っております。

3.固定資産税制の二重構造(二元性)
 第3番目の問題に入っていきます。先ほど申しましたように、地価公示価格という客観的な物差しによって評価が行われるということになったわけですが、先ほど申しました意味での固定資産税における制度の二重構造は依然として残っております。平成9年度の制度の運用に当たりましても本法附則の中に負担調整措置が残されたという意味では、二重構造は依然として残っていることになるわけであります。ただ、私はこの平成9年度の負担調整措置は従来の調整措置と比べると大きく進歩したものであると考えております。そのへんをこれから申し上げたいと思います。
 いま申しましたように、二元性、あるいは二重構造は依然として残っているわけであります。これを解決することが固定資産税の今後の最大の課題の一つであると思います。実は、負担調整措置はそのときどきにおいて必要だから採用されてきたと私は理解しております。つまり、評価が上昇して税負担の上昇をそれに伴って上昇させることになりますと、税負担が一挙に増大する。それを避けるためには負担調整措置をとらざるを得ないことになってくるわけであります。そういう意味で、負担調整措置は一種の納税者の当面の不満を和らげる薬のようなものであると思います。しかし、負担調整措置は他方では制度を非常に複雑化させるということもありますし、本則課税との間の乖離をますます大きくさせてしまうという側面もあって、大きな副作用を持っていることは否定できないのではないかと思います。
 そうすると、これをどういうふうにして解決したらいいのかということになるわけであります。実は、昭和38年に固定資産税評価検討委員会で報告書を出しております。そこでは今後は取引価格にしたがって土地を評価し、それを課税標準として固定資産税の税額は計算していくべきであるということを答申しています。それによって一挙に税負担が増大する場合には課税標準の上昇を抑えるという方法と、税率を調整するという方法のいずれかの方法で対処すべきだと言っています。恐らく、当時の状況としては税率の引き下げというかたちで対処することがいろいろな理由から困難であったという事情があったためであろうと思いますが、負担調整措置が暫定的な措置として採用され、それがその後ほぼ恒常化するということになってきました。先ほど申しました二重構造を改善するためには、税率で調整する、つまり負担調整措置を廃止して本則課税に一元化することが必要ではないか。そして公示価格、つまりフェア・マーケット・バリューを基準とした課税標準というもの、つまり評価が公示価格の7割をめどとするということになったわけですから、そういう本則課税に一元化することの基盤がつくられたのではないかと考えたわけであります。
 ただ、現在の税率のもとでこれを行うと、公平は維持されるかもしれませんが、大部分の土地について負担が増大いたします。多くの土地については負担が激増するということがあります。他方、それを避けるために一律に税率を下げますと、同じように公平は維持できるかもしれませんが、バブルによる地価変動を受けなかった地方団体では税収が減少してしまうという問題があります。
 そこで、この点で注目されるのが平成9年の新しい負担調整措置であります。これは詳しくはシンポジウムのときに片山課長からお話があることと思います。この新しい負担調整措置は私は大変に前向きなものであって、将来の二元性の解消のための礎石となるような意味を持っていると考えております。この負担調整措置はご案内のように、商業地等については公示価格の7割の評価額の60%ないし80%に課税標準を収斂させようとしているわけであります。また、住宅用地については課税標準を本則課税の80%から100%に収斂させようとしているわけであります。商業地等の評価額の60%ないし80%というのは、公示価格との比率で言いますと42%ないし56%であります。平均するとほぼ50%ぐらいということになりますから、けっして高い課税標準ではないと思います。それから、住宅用地の80%ないし100%というのは一見したところでは高く見えるかもしれませんが、住宅用地についてはもともと本法によって200平米までは課税標準は1/6、200平米を超える部分は1/3とされているわけでありますから、これもけっして高い課税標準とは言えないように思います。
もっとも、現在の調整率のもとでは60%ないし80%、あるいは80%ないし100%の間に課税標準が収斂するためにはかなりの年月を必要といたします。また、もし将来地価が上昇するということがあればその収斂に要する年数はさらに長くなってしまうということがあります。ですから、なるべく早くこの60%ないし80%、あるいは80%ないし100%の間に課税標準が収斂するためには地価の安定が大前提であるということになります。
 将来の地価動向というのはわかりませんが、日本経済の空洞化の理由の中でも地価が高いということが一つの理由になっているわけでありますし、外国の企業が最近日本になかなか立地しないというのも地価が高いということが主要な理由になっているわけでありますから、地価の安定は日本経済全体にとっても大変重要なことであります。これは国の政策として、地価の安定基調というのはぜひとも維持してもらいたいと私は考えております。それは固定資産税制度にとっても好ましいことであると思われるわけであります。それは早目にこのバンドの中に課税標準を収斂させるためには好ましいことであると考えるわけであります。大方の土地の課税標準がこの60%ないし80%、あるいは80%ないし100%の中に収斂された場合には、固定資産税制について思い切った改革を行うことが可能になってくるであろうと思います。
 その場合には負担調整措置を廃止して、税率のみの操作によって固定資産税の負担を決定するということが可能になるのではないか。そういう意味で、先ほど申しました制度の二元性ないしは二重構造の解消を本格的に検討することが可能になってくるのではないかと考えるわけであります。しかも、その場合の課税標準は公示価格という客観的な物差しを基準としているわけであります。もちろん、公示価格を算定するポイントは限られておりますが、それに準じて国土利用法によって都道府県が鑑定を行う。あるいは評価基準にしたがって市町村が非常にたくさんのポイントについて鑑定を行うわけでありますが、それは公示価格という客観的な物差しを基準としているという意味で、固定資産相互間の評価の公平と均衡が維持されるわけであります。したがって、負担の公平も維持されることになります。

4.今後の固定資産税のあり方
 市町村の税収の変動を最小限にするためにも、あるいは地方団体の税収の必要性に柔軟に対応するためにも税率を一本に決めてしまうことは恐らく適当ではないであろう。現在は地方税法で標準税率と制限税率を定めておりますが、そういうふうに地方税法で基準となる税率を定める必要性は依然として残るのではないかと思います。この点については午後にまた福井先生からお話があるかもしれませんが、地方団体は各市町村が一本の税率を適用することになりますと、地方団体によって固定資産税からの税収にばらつきが出てしまうということもあるかもしれませんので、一定の幅を認める必要があるのではないかと思います。現在の標準税率というのはそういう意味を持っていると思うわけであります。
 それから、福井先生のお話に出てくると思いますが、アメリカのようにまず行政需要との関係で各市町村が財産税から今年はどの程度の税収をあげなければならないかということを算定して、そこから逆に税率を決めていくという考え方も将来の方向としては出てくるかもしれません。これは地方自治が一定の成熟した段階に達すれば好ましいことであると考えられます。地方自治が成熟すれば、各市町村の人々は自分たちが必要としている公共サービスのためにこれだけの固定資産税をお互いに負担しよう。そのためにはどの程度の税率が必要であるかということを自主的に決定することになっていくと思います。あるいはそうなることを期待しているわけであります。そういう段階に達して、地方団体、各市町村が自主的に税率を決めることが可能な時代が早くやってくるとよいと私自身は希望しているわけであります。ただ、このように考えた場合にも問題は残ると思います。固定資産税の負担が市町村によってあまりばらばらになるのは好ましくないのではないかという問題が一つあります。
 それから第2番目には、交付税の算定の基準となる基準財政収入額との関係であります。基準財政収入額は標準税率で固定資産税なりその他の地方税を徴収した場合に得られる収入額を基礎としているわけですから、そういう意味では標準税率を定める必要は依然として残ってくるということになります。
 第3番目には、ご案内のように地方財政法の5条1項の5号で、市町村が一定の事業を行うための公債を発行するためには、標準税率以上で固定資産税やその他の税を課さなければならないとされている点であります。こういう点との調整をどう考えるかということが残された大きな問題だということになります。ですから、地方団体に自立的に税率を決定することを任せるといってもこういう問題が残っているわけであります。
 この点で、地方分権推進会議でどういう議論があったかということを神野教授からお聞きしたことがあります。簡単に伺っただけですので正確に神野さんの言われたことをフォローしているかどうか自信がありませんので、もし間違いだったらまたあとで訂正してもらいたいと思います。それによりますと、税率は地方税法で定めることをやめて各市町村の自律に委ねる。そのかわり交付税の基準となるポイント、基準財政収入額を計算する税率、現在の標準税率に代わるものと言ってもいいかもしれませんが、それは別途決めるという考え方が地方分権推進会議の中にはあったということを聞いたことがあります。これも一つの考え方だとは思いますが、私自身は地方税法の中で標準税率は定めておいた方がいいのではないかと考えております。ただ、市町村が自律的に税率を決めうることを可能にするために、地方税法で定める標準税率は一定の幅を持ったものとして考えることができないかどうかということであります。
 これはまったくの仮説、試論でありましてまだ詰めて考えなければならない点が多々ございます。例えばの話ですが、1%から2%というふうな一定の幅を持ったものとして標準税率を規定する。そして、交付税額の算定の基礎となる税率は、例えばその幅の中の中間の少し上のところにセットするというようなことをする。それから、地方財政法5条1項5号との関係では、標準税率の最下限以上であれば公債の発行を認めるというような制度をつくることも一つの考え方なのではないかと思っております。ただ、これはまだ考えているだけでありまして、もう少しいろいろな、実証的な調査も必要でありますし、ご専門の人たちと意見を交換するということも必要でありますので、ここではまったくの個人的な一つの考え方として受け取っていただければありがたいと思います。
 いずれにいたしましても、市町村の財政が赤字体質化することは防止しなければなりませんし、地方の健全財政を維持することは大変必要なことだと思いますので、そういう観点から私は地方税法に税率を定めておくことは必要なのではないかと考えるわけであります。
 先ほども申しましたように、固定資産税は地方にとっては大変重要な税源であります。地方税の中で本当に地方独自の租税としてどういうものがあるだろうかと考えてみますと、もちろんいくつかあります。その中で大きな、しかも安定的な税収をあげているものは固定資産税であります。事業税もいろいろ改正を加えれば地方独自の税源になりうると思いますが、いまのところは固定資産税が最も地方独自の財源としての特色を備えているとみてよろしいと思います。
 そういう意味で、固定資産税は非常に重要な租税であると考えるわけでありまして、皆様が日ごろ固定資産税の問題についていろいろとご検討をなさっている点について、いろいろとご意見を伺わせていただければ大変ありがたいと思います。

おわりに
 それから、こういう研究大会を開催された資産評価システム研究センターに敬意を表しまして私の話を終わらせていただきたいと思います。ご静聴どうもありがとうございました。