評価センター資料閲覧室

第12回 固定資産評価研究大会概要 固定資産税の行く手を考える

パネルディスカッション

「その他の宅地評価法」の課題

 
コーディネーター

 総務省自治税務局固定資産税課長
  大橋 秀行
 
 
パネリスト

 (財)日本不動産研究所システム評価部次長
  稲葉 勝巳
 
 明海大学不動産学部教授
 前川 俊一
 
 群馬県高崎市財務部資産税課長
 間野 順一
 
 神戸市行財政局主税部固定資産税課長
  山下 太郎
 
  総務省自治税務局資産評価室長
  深澤 俊樹
 

はじめに

【大橋】 それでは、早速、この後、1時間少しの時間でありますけれども、「「その他の宅地評価法」の課題」ということでディスカッションを進めてまいりたいと思います。コーディネート役として、少しでも皆様方の役に立つような議論をしっかりと進めていくよう、皆様の協力をいただいて取り運んでまいります。よろしくお願いをしたいと思います。
 時間に限りがありますので、さくさくと進めてまいりますが、まず、今日のテーマ、繰り返しになりますけれども、「「その他の宅地評価法」の課題」ということであります。
 今日お集まりをいただいている皆様方の関心事の一つとして、この問題、いろいろな立場で注目をし、また日常の業務の中で課題を持って、あるいは感じて、今日、この場にお集まりいただいているのではないかと思います。
 そういう面で、この後の議論を進めていくに当たって、この「その他の宅地評価法」の現在の制度、あるいは問題の所在についての共通認識をつくるという意味も込めまして、全体のこの後のテーマの底流をなします部分に関し、まず導入役を、今日パネラーの中に総務省の担当室長、深澤さんが参加いただいていますので、すみませんが、その辺の認識の共有化という観点で、少し問題提起をいただきたいと思います。よろしくお願いします。

1.「その他の宅地評価法」の現状と課題の整理

【深澤】  それでは、手始めに、私のほうから、もう皆さんは制度については十分ご存じのことでございますけれども、評価基準にどういう書きぶりしているかというところにちょっと当たりながら、制度の概略についてご説明をさせていただきたいと思います。
 皆さん、資料1と資料13をお開きいただきまして、資料13は評価基準となっていますので、ご覧いただきながらということでお願いしたいと思います。
 ご承知のように、「その他の宅地評価法」、一番最初に行いますのは、状況類似地区の区分をする。その区分ごとに標準地、標準宅地を選定をして、その標準宅地に適正な時価をつける、評定するということ。そして、その標準宅地から各筆のほうに比準をして持っていく。こういう流れなわけですけれども、それぞれの流れについて、評価基準はどういうふうに書いているかということでございます。
 資料13を見ていただきますと、状況類似地区の区分に当たりましては、ちょっと読むような格好になりますが、「宅地の沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに区分する」、こういう書き方になっております。そして、その状況類似地区を切った後の標準地、標準宅地の選定については、その3に書いてありますけれども、「標準宅地は、状況類似地区ごとに、道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて、標準的なものと認められるものを選定する」と書いてございます。この辺、後の議論の中で少し出てくることだと思います。
 それから、標準宅地を選定しますと、それに値段をつけなくちゃいけませんが、その付設につきましては、4番に書いてございますが、「売買実例価額から評定する」と、こうなっています。これは、ここには載っていませんが、経過措置で、地価公示価格、あるいは鑑定価格、これの7割ということが、経過措置で、12節のほうに書かれているということでございます。
 標準宅地に、こういう形で評点が付設されますと、その次の大きな5番で、各筆の評点数。これは、別表第4に載っていますけれども、宅地の比準表により求めた比準割合を乗じて求めると、こういう格好になってございます。この辺も、後の議論で出てくるところでございます。
 資料1の大きな流れといたしましては、そういうことで、復習という感じですけれども、資料2をご覧いただきたいと思います。
 こうした「その他の宅地評価法」が世の中にあらわれてきましたのは、昭和38年の「固定資産評価基準」によるところでございます。黒丸の2つ目、後ろのほうに「その他の宅地評価法」と名前が出てまいります。これが一番最初に出てきております。
 その前は、昭和26年あたりは賃貸価格掛ける倍率でありますとかしていたんですが、28年には路線価式なども導入されてきておりますが、「その他の宅地評価法」という形で、今の形が出てきたのが38年ということでございます。それから、平成4年には7割評価を、これは次官の依命通達でもって導入し、これを平成8年に評価基準に7割評価を出してきていると、こういうことでございます。
 大体、制度の復習はそのぐらいにしまして、こうした制度を全国でやっているわけですけれども、それについて、この制度の採用状況、あるいは課題についての認識につきまして、先ごろ、全市町村のご協力をいただきまして調査をしております。その結果をまとめましたのが資料3〜12でございます。ちょっとご紹介させていただきます。資料4に飛ばしていただきます。
 「その他の宅地評価法」を採用している団体は、全体の9割弱ということになってございます。図1をご覧いただきますと、@に、いわゆる「市街地宅地評価法」、路線価だけしかやっていないというところが14%ございますが、それ以外の団体は、すべて、この「その他の宅地評価法」を全部、あるいは一部採用していると、こういうことでございます。
 そうした団体が1,542団体あるわけですけれども、「その他の宅地評価法」をやっていて、これから路線価方式に移行しようかという検討をしているところがどのぐらいあるかを調べましたところ、図2でございます。現在検討しているのが20%、過去に検討したことがあるのが14%ということで、大体、半分はいかないんですけれども、移行を検討しているところの団体も結構多いということでございます。
 上のほうの2つ目の丸ですけれども、その理由としては、納税者に説明しやすいということもありますし、また問題点としては、路線価を引くのに膨大な人員等がかかるという問題もあって、なかなか移行できないということもあるようでございます。
 次に、「その他の宅地評価法」を採用している団体の特徴的なところを調査いたしましたのが、資料5、6でございます。
 資料6のほうが表にして見やすいですので、こちらで説明しますと、これは左のほうに単独適用団体、これが501団体ございます。併用団体、路線価方式とその他を併用しているのが1,041団体ございます。「その他の宅地評価法」だけを採用している501団体というのは、やはり、人口規模が小さいところが多い。それに対しまして、併用団体は人口規模が多いところというところが、そこに書いてございます。
 それから、都市計画区域の指定でありますとか、線引きの有無とか、用途地域の有無、こういったところを見ましても、単独適用団体というのは、その率が非常に低いところになっておりますし、併用団体というのは、その率が高いということがご覧いただけるかと思います。
 右から2番目の箱ですけれども、ここで注目いただきたいのは、平均面積。これは、状況類似地区の平均的な面積でございます。単独適用団体が4.409q2に対しまして、併用団体は1.548q2ということで、単独のほうが大きい。状況類似地区を大きく切っているという特徴が見られるかと思います。
 価格水準を見ますと、当然ながら、単独適用団体のほうが価格水準は低い、併用団体は高いというところがご覧いただけるかと思います。
 また、もう一つ重要なのは、価格差でございます。「その他の宅地評価法」をとっている地域の中で一番地価の低いところと高いところの差というところですけれども、その格差が、単独適用団体では23倍、併用団体のうち路線価をとっているところでは17倍ということですので、単独適用団体の状況類似地区内の価格差というのは、あるいは状況類似地区を越えて、「その他の宅地評価法」区域内での価格差というのは、単独適用団体のほうが高いというところが見受けられるかと思います。
 資料7に行きまして、そして制度面での課題があるでしょうかという問いでございます。右のほうの図3をご覧いただきますと、42%の団体が、やはり、課題・問題はあるとお答えいただいております。
 その課題の内容につきましては、その状況類似地区の区分について問題があるというのが85%、標準宅地の選定についてが50%、宅地の比準表についてが46%ということで、そこの小さな字で書いてありますような理由で、ある程度課題が多いということを指摘する団体が多うございます。
 そうした課題に対して、市町村は、どういうふうな対応を工夫しているかというところが資料8以降でございます。資料8は、まず「状況類似地区の区分」について工夫をしているという内容でございますが、下のグラフ見ていただきますように、状況類似地区をなるべく細かく切っているだとか、標宅の前面道路とその他の宅地の道路の格差、いわゆる道路価方式を採用しているとか、あるいはウに書いてありますように、小状類、状況類似をさらに小さくした、いわゆる地域価方式を採用していますという団体も多々ございます。
 資料9でございますが、「標準宅地の選定」関係で工夫をしているというところですけれども、鑑定評価額そのものではなくて、「標準価格」を使用していると。全部について、あるいは一部の標準宅地について、合わせますと7割方が標準宅地に、「標準価格」を使用しているという工夫をしてございます。また、ウに書いてありますように、「その他の比準割合」で補正をしているという団体もございます。
 資料10でございますが、今度は「比準表の適用」につきまして工夫をしている団体というのも7割方ございますが、その中で、接面道路との関係で補正を入れているところがございまして、その他、さまざまな補正を工夫して、つくっているという団体が多うございます。
 資料11ですけれども、「その他の宅地評価法」に対する改善が必要かどうかというところですけれども、図8にありますように、現行のままでよいとするのが65%ありますが、残りの35%は簡素化あるいは精緻化、あるいは簡素化すべきところと精緻化すべき部分とがあるという指摘をしてございます。
 改善をするべきだと回答をした地方団体の特徴ということになりますけれども、先ほどの単独適用団体よりも併用団体のほうが、やはり、改正点が多いなという問題意識を高く持っておるようでございますし、人口規模別に見まして、やはり、人口規模の多いところのほうが問題意識が多い、改善するべき点が多いという指摘をしているところでございます。
 大体、現状は以上でございます。
【大橋】 ありがとうございます。
 今、総務省が実施した実態調査に基づいて、「その他の宅地評価法」の適用の状況であるとか、あるいは諸課題ということを、どんなふうに認識をされていらっしゃるか、その全体図のようなものが調査結果として、ひとまず浮かび上がってきているんだろうと思います。
 そこで、今度は稲葉さんにお聞きしたいと思いますけれども、稲葉さんは、全国の市町村の評価事務に実際に携わっていらっしゃると思います。そういう意味で、少し重なるところもあるかもしれませんけれども、専門的な立場で、では、何が一体課題なのかということについての問題整理を一度ここでしていただき、そこから今度は、個々の課題について少し議論を深めていきたいと思いますが、お願いできますか。
【稲葉】  わかりました。そうしましたら、今ちょうど深澤室長のほうからアンケート調査結果の報告もありましたが、全国1,800の団体がございまして、市町村の規模や地域性によって課題もそれぞれ違いがあると思いますが、全国共通の課題として整理させていただこうと思います。
 お手元の資料14ですが、まずは、「その他の宅地評価法」の本質として「その他の宅地評価法」は標準地比準方式であることから、価格形成要因については、状況類似地区区分の段階と、画地である宅地の比準表適用段階の2つの段階で価格形成要因を考慮することになります。
 市街地宅地評価法につきましては、これは路線価方式と呼ばれまして、状況類似地域区分、路線価及び画地計算法適用段階の3段階で価格形成要因を見ることができますが、「その他の宅地評価法」は2つの段階で価格形成要因を考慮しなければならないところに相違があります。
 その他の宅地評価法の本質を前提に課題を整理しますと、この資料14にあるように、3つのセグメントに区分して把握できます。1つは、状況類似地区区分に関連する課題、2つ目は、標準宅地選定に関連する課題、3つ目は、宅地の比準表に関連する課題ということで整理されるかと思います。
 ここで、1番目の状況類似地区区分に関連する課題のところから、点線で宅地の比準表のほうに出ていますがこの意味は今お話しさせていただいたように、「その他の宅地評価法」では価格形成要因の考慮が、状況類似地区区分と宅地の比準表の段階でしかないため、地区区分と宅地比準表相互間で関連しているという意味です。実務的には、状況類似地区区分における利用状況による地区区分においては、宅地の比準表が適用できるように、状況類似地区区分をすることになりますので、点線で相互関係を表現したものです。
 資料15ですが、市町村の共通課題ということで、3つあげさせていただきました。
 状況類似地区区分に関する、主な課題としては、地区内の価格差、状況類似境の価格差、それと、評価手法間、これは「その他の宅地評価法」と市街地宅地評価法相互間の評価手法の違いによる価格差、これが課題になっています。
 標準宅地選定に関する課題としましては、標準的な宅地の選定に苦慮しているということです。
 宅地の比準表に関連する課題としては、その他の比準割合ですね。これが評価基準上、具体的な例示がなくて、その適用に苦慮しているということです。
 このように共通課題として整理ができるのかなということでやってみました。
 3つ以外の課題としましては、この市街地宅地評価法に移行するための作業負担や詳細対応するための作業負担。コストも含めてかもしれませんけれども、こういった課題があげられると思っております。
 資料16をご覧下さい。それぞれの課題に対して具体的に説明するとともに市町村ではどのような対応を行っているかということをまとめてみたものです。
 1点目は状況類似地区区分に関連する課題です。状況類似地区区分の現状は、都市計画区域や線引きの有無等によっても、その状況は異なると思いますが、2つの傾向があると思います。
 第1は、その他の宅地評価法適用区域のほうが、市街地宅地評価法を適用しているところよりは広域的に、広く、その状況類似地区を区分しているという実態。第2は、「その他の宅地評価法」を適用している区域の最高価格と最低価格の価格差が市街地宅地評価法よりも大きい傾向があるかと思います。
 これらの傾向を前提にこの状況類似地区区分に関連する課題を具体的にみていきますと、先ほどの状況類似地区内の宅地間の価格差が課題となるケースは、第1の傾向に起因することかと思います。
 状況類似境における価格差。これについては、最高価格、最低価格の価格差が大きいという第2の傾向に起因することになります。
 評価手法間バランスについては両方の傾向に起因するものとして整理できます。
 また、この状況類似地区区分の課題としましては、規模が大きい農家住宅と、比較的規模が小さい新興住宅地が混在している場合の状況類似地区区分をどういうふうにしたらいいのかとか、あとは集落内に小規模な宅地分譲とか別荘地、これが整備された場合、その状況類似地区区分、どこまで対応するかというところに市町村の悩みがあるかと思います。
 このような状況類似地区区分の課題に対する市町村の対応としましては、状況類似地区区分を、やはり、詳細に区分していこうという対応ですね。それと、あとは、いわゆる道路価・地域価。これは後で説明させていただこうと思いますけれども、これの導入による対応があります。地域価とか道路価は、評価基準では定められていませんので、不安ながら適用しているのが実態です。また、作業量とかの問題はあるのかもしれませんけれども、市街地宅地評価法に思い切って移行するという対応をしている市町村もあります。
 2つ目の標準宅地選定に関連する課題に移ります。標準宅地の選定とは、状況類似区分を区分するときに、考慮した要因ないしは要素を具備した宅地を選定するということが実務上の話かと思いますけれども、地域の標準的な宅地の選定に苦慮しているという実態があります。具体的には、規模とか形状、接面状況にばらつきがあるため、その選定に苦慮するとか、宅地が少ない場合の標準的な判断が非常に難しい。また、農家集落と開発住宅地とが混在している場合、どちらを選定したら良いのか、また調整区域の宅地の選定では、線引き前宅地ですとか限定宅地等の調査が非常に困難であることも関連して、標準的な宅地の選定に苦慮しているという実態があります。
 一方、標準宅地選定の課題に対する市町村の対応としましては、主に鑑定評価結果の活用の工夫で対応しているようです。
 具体的には、この標準価格を採用することで対応している市町村もあります。
 その他の対応としましては、一定条件のもとに標準宅地の選定を行っている市町村もあります。例えば、幅員が4メートル以上とか、規模はこれぐらいという選定基準をあらかじめ作成し、これに基づき選定して対応を行っている市町村もあります。
 宅地の比準表に関連する課題ということでは、その他の比準割合が、奥行による比準割合のように具体的に定められていないため、実情に応じて設定しなければならない課題があります。市町村では、街路条件を中心に、日照、限定宅地等の所要の補正を適用したり、画地計算法を参考としながら適用しているのが現状かというところかと思います。
 形状等による比準割合についても、同じように、下限の大きさの記述しかないので、具体的に例示がないというところで、特に不整形の運用については、同じように画地計算法の附表を参考として適用しているという実態があるかと思います。
 また、標準地比準方式であるその他の宅地評価法ですが、路線価方式である画地計算法をそのまま適用しているという実態もあります。電算システム上の制約があるということで、画地計算法による適用をとらざるを得ない実態もあります。
 市町村の共通課題として整理すると、以上かと思っております。
【大橋】 ありがとうございます。
 今、いろいろな課題を挙げていただいたわけですけれども、おそらくは、この多くの項目、全国の市町村で、濃淡はあるでしょうけれども、共通した問題意識として共有できている部分ではないかなと思います。
 行政の立場からしますと、今度は、こういう諸課題があるのであれば、その問題解決をというふうに考えていかなければいけないわけですけれども、前川先生、先生は、実際に大学で教鞭をとられながらも、一方で不動産鑑定士として、実際にいろいろな経験を積んでこられていると思いますが、先生の立場から見て、こういう問題を実際に解決していくに当たって、何か留意をしておかなければいけない問題であるとか、あるいは、ここを制度として、あるいは体系として組み上げていこうとするときに、欠いてはいけない視点だぞとか、何か今、整理いただいた課題に関係してコメントをいただけますでしょうか。
【前川】 はい、わかりました。稲葉さんのほうから、かなりわかりやすく課題の整理をしていただきました。それから、私自身、不動産鑑定の実務をやっているわけではありませんし、「その他の宅地評価法」についても、十分承知しているわけではありませんので、私のほうからは、稲葉さんの課題の整理について、私の立場から、なぜ、こういった課題が生じているのかという問題を整理し問題解決のポイントとなることはどういうことかといったことについて、お話ししたいと思います。
 まず、よく租税の教科書に出てきますが、租税の3原則は公平、中立、簡素です。固定資産税の課税においても、これら3原則を重視しなければいけません。
 しかし、また課税のコストも十分考えなければなりません。不動産は、株式などと違って、マーケットがしっかりしているわけではありません。その意味では、価格の信憑性が問題になります。その意味で、不動産評価を厳格に行うことが必要ですが、コスト面で難しいところがあります。そういう意味では、公平性とコストといった関係から考えていくべきだろうと思います。もちろん、厳格に評価すればするほど公平であるわけですが、それには、厳格にしようとすればするほどコストがかかるということも考えていかなければならないということですね。
 公平とか簡素といった観点からは、課税標準額のバランスがとれているということが必要であり、評価の方法もわかりやすいといったことが必要となってきます、宅地については統一 な評価手法が適用されることが望ましいということになりますが、連たんした市街地を形成しない地域では、連たんした市街地と同じ評価手法を適用することは、非常に課税のコストがかかってしまうということになるわけです。
 このことから、連たんした市街地に適用する市街地宅地評価法とは異なる「その他の宅地評価法」を適用する地域を設けているということかと思います。
 今、稲葉さんが課題整理したものについて、少し感想じみるかもしれませんが、私なりに、なぜこのような課題が発生しているのかということを見ていきたいと思います。
 稲葉報告では、特に状況類似地区区分に関する課題については、地区内の格差、地域境の格差、評価手法の格差を問題としているわけです。この大きな原因というのは、状況類似地区が非常に大きいということ。そもそも、価格形成要因が異なる宅地が混在することです。例えば、農家住宅と分譲宅地の混在とか、農家住宅と別荘の混在といったようなものがあるわけですね。
 価格形成要因がそもそも異なりますので、地区内の画地設定した標準地から比準することが非常に難しくなってくるということが、根本的問題であろうと思います。
 基本的には、細かく区分することがいいじゃないかということになります。後で、稲葉さんのほうからの提案、実際の市区町村の対応にもあります。しかし、細かくすることは望ましいが先ほどのコストといった面も考える必要があります。
 居住密度が低いために、標準地点1ポイントによってカバーする宅地量が少ないとなると、1ポイント当たりの課税に係る行政コストが大きくなってしまうということです。
 このような問題を抱える中で、どういう課題の整理をしていくか。それが、先ほど言った公平とコストの比較ということであります。
 状況類似地区内の価格の格差が大きくても、仮に適切に評価されていれば、特に問題はないわけですが、標準地を設定するのが難しいとか、標準地からの比準の困難性といった問題が出てくるところに問題が生じているのだと思います。
 それから、状況地区内の境の格差が大きいとか、あるいは市街地宅地評価法との評価した場合の格差があるというのは、これは、まさに、今言った問題に起因しているわけです。
 大きな状況類似地区で標準地から適切に比準ができていればいいんですが、比準ができないとすれば、その適切な比準ができないという矛盾が、2つの大きな状況類似地区境で明確になってくるということですね。
 それぞれの状況類似地区で、標準地から比準された状況類似地区の境の価格が異なってしまうということになってしまうわけですね。これが、先ほど言った比準の難しさということが、そのまま出てきてしまっているということになります。
 また、異なった評価手法との評価額の違いも問題です。市街地宅地評価法との違いも全く同じ問題であって、市街地宅地評価法で評価の仕方でやったものと、いわゆる状況類似地区の標準地から比準して評価したものが答えが違ってしまうということはおかしいわけです。これは、先ほどの比準の難しさというものが、あらわれていることだと思います。
 それから、標準宅地の選定と宅地の比準に関してですが、問題は、基本的には同じだということです。何が標準地かがよくわからないわけですね。価格形成要因が異なる宅地が混在しているので、標準地の設定が非常に難しいということがあります。
 そうなると、標準画地を設定してということになるわけです。基本的には、基準で、標準宅地を定めて鑑定評価ということになっているようですが、方法論的には、どういったような方法であろうが、標準地を定めようが、標準地の鑑定評価額を基準にしようが、それがきちっと比準ができれば、問題がないわけですね。
 ただ、その比準がきちっとできるかということですが、現在の比準表では十分でないとすれば、今後細かくしていくべきかなとは思います。しかし、わかりやすさが必要です。先ほど稲葉さんと少し話していたときに出た話なんですが、課税される者にとってわかりにくいとだめだということです。先ほど簡素と言いましたが、簡素じゃなきゃいけない。あまり適正、厳格に評価するために、公平性を保つために厳格に評価するために、それがわかりにくくなっては、課税される側からいったら、これは何なんだということになります。それは、専門家から見たら厳格で公平だよと言っていても、その課税される側からしたら、よくわからないということであっては、やはり、先ほどの公平、中立、簡素の原則に合わないことになってくるわけですので、比準表の作成に関しても、ポイントは、やはり、公平と簡素のバランスをとっていかなければいけないだろうということですね。
 先ほど、いわゆる公平とコストの関係ということを言いましたが、公平と簡素も考えることが必要です。すべてを満たすことができないとすれば、そのバランスをどのようにとって、今後、改正、改善をしていくかということかと思います。
  私の報告は以上です。
【大橋】 ありがとうございます。

2.市町村の実務における工夫

【大橋】 今の話の中にありました公平性、あるいはコスト、簡素と言いかえてもいいのかもしれませんが、現実に、この「その他の宅地評価法」は、実際にこれから導入される制度云々という話ではありませんでして、現実に、既に行われているわけですね。だから、実際のところ、どうなのよという話を、やはり、少し、ここは、具体的な例に即して掘り下げてみたいと思うんですが、そこで、山下さんと間野さんにお聞きしたいと思います。神戸市、それから高崎市のそれぞれの実情のようなものについて、先ほど来、課題等々、いろいろ指摘がありました。で、どうなのよ、実際どんなふうにやっているのよというあたりについて、少し実例などの紹介をお願いできますでしょうか。
 まず、山下さんのほうからお願いしてよろしいですか。
【山下】 神戸市の山下です。
 まず、神戸市の状況でございます、神戸市は、全域について都市計画区域の設定がございまして、市街化区域と市街化調整区域のいずれかに、すべての土地が入っているという状態になっております。
 一部の特殊な土地を除きまして、市街化区域につきましては市街地宅地評価法、市街化調整区域についてはその他宅地評価法というふうに分けております。
 規模としては、市街地宅地評価法をとっている状況類似地区は、2,184というスケールです。その他宅地評価法は、調整区域を対象としていますが、466状況類似地区という形になっております。
 考え方ですが状況類似地区の設定、標準宅地の選定、それから宅地の比準表、この3つは有機的に関係しており、その間に順番がついているというものではなくて、フィードバックしながら考えていくべきものと理解をしております。
 まず、標準宅地の適正な時価を評定するに当たりまして、平成6年度から鑑定評価価格を活用することになりましたので、その時点で考え方を整理をしました、大きく分けまして、標準価格。その土地の個別的要因、即ち固有の価格事情が含まれていない価格。後ほど説明があるかと思いますが、標準価格を採用できる地域については、市街地宅地評価法を適用すべきではないかと考えております。
 本市につきましては、市街化区域の設定のあるところにつきましては、一部の特殊な土地を除きまして、標準価格を評定できますので、市街地宅地評価法を採用しています。
 一方、標準価格の評定が難しい地域については、その他宅地評価法を適用しております、市街化調整区域の土地がその土地であると考えております。
 市街化調整区域につきましては建築制限。もともと、宅地の売買が活発でないという歴史的な経緯もありますし、建築制限等の強い法的規制がありますので、なかなか標準価格の評定が難しいと。そういったものについては、その他宅地評価法を適用すべきと考えております。
 資料17、神戸市@という資料をご覧下さい。これで何を言いたいかと言いますと、この画面いっぱいの土地は、市街化調整区域です。右下に青色に少し塗っているところがございますが、これは市街化区域です。今日のお話には関係ありません。この地域は、市街化調整区域であり、標準価格の設定が難しいので、その他宅地評価法を適用しておりまして、赤で区切っております、これは状況類似地区の区分をあらわしておりまして、単位は小字単位ということにしております。
 先ほど、稲葉パネリストの課題の中では、市町村対応として、状況類似地区を詳細区分にしているというお話に相当するのかなというところです。
 標準宅地につきましては、小字の中の代表的、もしくは標準的な土地を選んで標準宅地にしています。先ほどの課題では、標準的な宅地の選定に苦慮をしているという課題に入ってくるお話なのかなと思います。
 小字単位としました理由としましては、もともと宅地売買が盛んではなかったという歴史的な経緯と、市街化調整区域ということでありますので、価格の形成要因を個別に分析をし数値化するのはなかなか難しいということが一つと、あと、歴史的経緯としまして、おおむねの価格水準については、最近では地租。古い国税の時代でしたが、地租の時代、あるいはそれ以前のいろいろ歴史的な経緯がありましたが、特に関西の場合、そういう傾向が強いものですが、そういった歴史的な経緯から、土地の絶対的な価値については、なかなか把握は難しいものの、土地の序列、値段の順番については厳然としてありましたので、そういったものを引き継いできたと。私どもの先輩が、現場に入って、地主の方から何度もヒアリングをして、土地の序列を聞いて回って、それで値をつけてきたという歴史があり、そういったものを受け継ぐものとして、小字。小字単位がそうであると考えて、小字単位を状況類似地区に設定をしているところです。
 資料17をご覧下さい。ほ場整備がなされておりますので、状況類似地区の区分線が割合きれいな線になっておりますが、あくまで宅地の話ですので、宅地の状況類似につきましては、小字単位を状況類似地区にしているところです。
 資料17では、赤い点が標準宅地を示しておりますが、歴史的な経緯、この地域の代表はここでしょうというところで設定をしております。
 次に、資料18を開いて下さい。これは左側が平成9年度、右側が平成18年度で、状況の変化をお示ししたいというものです。右側の18年度を見ていただきますと、青色に網かけしておりますが、全域が市街化区域となっております。市街化区域であったことは平成9年度においても同じでしたが、平成9年度につきましては、青色がかかっていないところがあります。右側では青色がかかっているが左側ではかかっていないところは、その他宅地評価法を適用していました。青色部分は市街地宅地評価法、路線価を付設していたところをあらわしておりますが、平成9年度の状況におきましては、市街化区域であっても、標準価格の評定は難しいということで、その他宅地評価法を適用していたということを示しております。
 この地域はもともと市街化区域に設定されておりますので、宅地化は容易ということもあり、実際も18年度に至って、町並みが整備されてきましたので、標準価格も設定できるようになり、全域が市街地宅地評価法適用地域に変わってきたのをあらわしているものです。
 神戸市につきましては、全国で珍しく、市街化区域と調整区域の線引き見直しを、ほぼ毎年のようにやっております。市街化を進める地域、宅地化を進めない地域の色分けをはっきりさせておりますので、宅地化が進むだろうという機運に合わせて市街化区域へと線引きを見直すといった都市計画行政の動きに固定資産税評価が乗ることができるという特殊性があります。そこで、その他宅地評価法をとりながら実態に合わせていろいろな比準等の工夫をしなくても、都市計画行政の進捗に伴う、街並みの形成度に応じて市街地宅地評価法に移行していけるのであれば、そちらのほうが適切であろうというのを、お示ししたかったというものです。
 資料19を開いてください。これは、先ほどの@の画面の一部分を拡大したもので、全域が市街化調整区域となっています。
 これにつきましては、歴史的な経緯から小字単位にしておりますが、基本的に調整区域であり、神戸市につきましては宅地化を進めない地域ですので、分家住宅が散在する場所で一団の団地ができるというのは通常はありません、そういった地域ではありますが、例えば、主要幹線道路ができますと、歴史的な小字の秩序が破れて、新しい価格水準ができていると把握できます。画面を見ていただくと、中ほど、細長い帯のような形がわかるかと思いますが、主要幹線道路に新しい価格水準が出ておりますので、これを区分して、それを新たな状類にしております。
 標準宅地につきましても、その主要幹線道路の主に沿道サービス、そういったものを代表するようなところを標準宅地に選んでおります、小字単位で選んだ標準宅地とは若干、選定の基準は違っております。それは、新たな価格水準。この場合についての価格形成要因は何であるかを考えて、その観点から標準宅地を設定をしたという形になっております。
 画面を見ていただきますと、一つの状類の真ん中を道路が通っており、道路の両側のどちらか一つにしか標準宅地がない状況類似地区につきましては、旧来の価格水準はそのままで、真ん中に新しい状類がくり抜かれたという形になりますので、実務でいわゆる眼鏡状類という形になっております。
 状況は変わっていないものについては、新たに区分をしない。標準宅地についても変わる要素がないというところで、眼鏡状類という特殊な形になっております。
 状況類似地区、標準宅地の選定は分けて考えておりますが、宅地の比準表ではご覧になってわかりますように、奥行や形状といった外観から見てわかる価格差で調整をしなさいということになっておりますので、これが機能するためには、状況類似地区、それから標準宅地を詳細化することによって、外観だけの補正である宅地の比準表が機能するように、この状類、標宅の選定、それから宅地の比準表、この3つを有機的にフィードバックをしながら考えて評価を行っております。
 ただ、例外として、宅地の比準表、そういった3者の有機的な調整でも、なおかつ、価格状況をうまく反映できないという場合については、評価基準に定めております角地や二方路価影響加算とは別に、神戸市独自に、無道路地であるとか、がけ地であるとか、土地の規模であるとか、形質の相違を見て、価格に与える影響を個別に判断して、比準割合を設けて神戸市独自の補正をしている実態にあります。
  以上です。
【大橋】  ありがとうございます。
 間野さんも、続いてお願いできますか。
【間野】 高崎市の間野でございます。
 それでは、その他宅地評価法につきまして、高崎市の事例を説明いたします。
 最初に、資料20をお願いいたします。
 高崎市の状況類似地区の状況ですが、高崎市は車社会で、幹線道路沿いに沿道サービス型の地域で構成されておりまして、背後との価格水準の差が認められます。したがいまして、利用状況の異なります幹線道路を状況類似地区として区分し、これにあわせまして、従来は、主として字単位に分かれていました状況類似地区の大幅な見直しを行いました。そして、区分されました幹線道路について、従来は「その他の宅地評価法」として評価してまいりましたが、評価精度向上のため、市街地宅地評価法として整理いたしました。
 先ほどの稲葉パネリストの状況類似地区区分の課題に対しましては、主要地方道等の幹線道路沿いは状況類似地区区分、その他の地区も詳細な区分を行うことで対応しております。また、ある程度まとまりのある開発団地についても状況類似地区区分を行っております。このように、高崎市では、詳細な状況類似地区区分により課題の解決を図っております。
 次に、資料21をお願いいたします。
 標準宅地の選定でございますが、高崎市では、個性のない標準宅地を選定することが困難でありまして、当該個性率を比準宅地に適切に反映していくことが困難であったため、鑑定評価額に変えまして、標準価格を採用することで解決を図りました。
 具体的に申しますと、標準宅地の選定に当たりましては、幅員が4メートル以上の宅地を選定することを原則とし、地域間のバランスをとるようにしております。4メートル未満が標準である地域については、高崎市の幅員補正により割り戻しを行い対応をしております。
 稲葉パネリストの標準宅地選定の課題に対しましては、高崎市では、標準価格を採用することで対応しております。標準価格を採用している関係上、高崎市、システム評価業者及び担当鑑定士と三者会議を何回も開催し、担当鑑定士のご理解をいただきながら円滑に作業を進めております。
 次に、資料22をお願いいたします。
 宅地の比準表でございますが、一概に「その他の宅地評価法」適用地域といっても、利用状況はさまざまであるため、4つの区分基準を設定いたしました。
 1つ目は、開発団地等で、周囲の農家住宅等とは明らかな価格差が認められる場合につきましては、「専用住宅が相当連たんしているとき」の区分を活用いたしました。
 2つ目は、その他の農家住宅地域等につきましては、「家屋の連たん度が低いとき」の区分を活用いたしました。
 3つ目は、中小工場等を中心とする地域につきましては、奥行補正につきましては「画地計算法」における中小工場地区の区分の補正率を活用いたしました。
 4つ目は、規模3万u以上の大規模工場等につきましては、個別評価を採用いたしました。なお、個別評価とは、当該画地自体を個別に評価するものでございます。
 次に、資料23をお願いいたします。
 宅地の比準表形式では、電算上の制約があるため、補正率形式を採用することで解決を図りました。具体的には、所要の補正として、5段階の幅員補正を採用しておりますが、標準宅地は、原則として、4メートル以上の箇所を選定するものとし、比準宅地に対しては、幅員補正を補正率形式により適用しております。4メートル以上の標準宅地の選定が困難な場合には、標準価格の割り戻しにより対応しております。
 以上のことから、高崎市における宅地の比準表、所要の補正の適用内容は、3通りにより、きめ細かい補正により評価精度の向上を図っております。
 1つ目は、奥行による比準割合でございますが、これは「専用住宅が相当連たんしているとき」、「家屋の連たん度が低いとき」の区分を併用しております。
 2つ目は、形状等による比準割合でございまして、不整形補正、間口狭小補正、奥行長大補正を適用しております。なお、間口狭小補正につきましては、間口2メートル未満の区分を設定しております。
 3つ目は、その他の比準割合でございまして、幅員補正、行き止まり補正、無道路地補正、水路補正、高低差補正、高圧線補正、規模格差補正、新幹線補正等、さまざまな補正を適用しております。
 稲葉パネリストの宅地の比準表の課題に対しましては、標準宅地の適正な時価において、標準価格を採用し、宅地の比準表は、画地計算法による補正率を準用適用することで対応しております。「その他の宅地評価法」におきます大規模地の評価は、悩みの多いところでありますが、高崎市では、規模格差補正を所要の補正で適用して対応をしております。
 最後に、資料24をお願いいたします。
 その他でございますが、高崎市では、市街地宅地評価法と「その他の宅地評価法」を併用するため、両者の区分基準の検討が重要と考えておりまして、この点、高崎市では、原則として、市街化区域を路線地区、市街化調整区域をその他地区と設定していましたが、路線付設作業は大きな作業負担となるため、優先順位を決めて、徐々に路線地区を拡大してきた経緯がございます。市街化区域全域への路線付設が完了したのは、平成15年の評価替えにおいてであります。
 稲葉パネリストの発言でもあったとおり、データ取得の作業量が大変でありますが、街路条件については、価格への影響が特に大きいため、不可欠な補正と考えて整備しております。
 以上でございます。
【大橋】  ありがとうございます。

3.課題に対する対応策の提案

【大橋】 今、間野さんから高崎市の、それから、その前は山下さんから神戸市の具体的な取り組みの様子についてご紹介いただいたんですが、もう一度、すみません、稲葉さんにお聞きしたいと思うんですけれども、先ほど、稲葉さんには、問題整理ということをしていただいたわけです。全国、いわば共通の課題の整理ということでお願いをしたわけですから、今度は、今の神戸市、あるいは高崎市の具体的な例を踏まえて、もう一度、これを一般化して、具体的に、では、こういう課題についてどういうふうに取り組んでいくべきなのか。取り組んでいけば、少しでも問題解決が進んでいくのか。そういう視点で、少しお話をいただければと思いますが。
【稲葉】 わかりました。そうしましたら、資料25をご覧下さい。
 今、山下パネリスト、それから間野パネリストのお話もうかがって、現行評価基準のもと、かなり詳細な対応がされていると思います。この資料25のように3つのセグメントにおける課題ごとに解決に向けた提案をしてみたいと思います。その中で、解決に向けた提案として、標準地比準方式である「その他の宅地評価法」に市街地宅地評価法の一部を導入することはできないかという検討が、この3つの共通課題の解決策として、まずは必要であると考えており、検討結果として評価基準の改正や基準の改正までいかないまでも、現行評価基準の枠内で、その解釈や具体的実例等に関する通知ですとか、技術支援を市町村に対して行うことが必要と思います。
 では、さきほどの3つの共通課題について、具体的にみていきます。状況類似地区区分に関しては、いわゆる道路価方式・地域価方式は、課題解決の有効な手法として採用していくことを提案します。
 それと、標準宅地選定に関連する課題に対する解決策ですが、標準宅地の適正な時価評定において活用できる鑑定結果の工夫があります。平成6年の評価替えから鑑定評価を経過措置で導入していますけれども、これの活用方法について再度、考え方を整理した上で、市町村に活用方法の実例等を示すことが必要と考えます。
 3つ目の、宅地の比準表に関連する課題としましては、やはり、その他の比準割合に関して、先ほど、間野パネリストのほうからご報告がありましたが、かなり、その他の比準割合で、いろいろと適用されておりますが、評価基準では、非常に抽象的で、具体例が少ないため、具体的に充実をはかるべきではないかと思います。この辺の充実。
 もう一つは、先ほど冒頭に申した市街地宅地評価法の評価手法の一部導入ということで、画地計算法の適用は、許容されるか否かの検討が必要であり、整理することが重要と考えます。
 次、資料26お願いします。
 いわゆる道路価方式・地域価方式ですが、まずは道路価方式とは標準宅地の前面道路、その他の宅地の前面道路との格差について道路価という言い方をあえてさせていただければ、これを求めて、その格差を「その他の比準割合」として適用する方法です。
 これにつきましては、標準地比準方式というのが「その他の宅地評価法」の基本ですので、この路線価方式を導入することは、現行評価基準においても許容されるか検討を要するところであります。
 地域価方式ですが、こちらにつきまして、状況類似内をさらに細分化して、いわゆる子状類というんですが、この子状類を区分して、標準宅地の位置するこの子状類とそのほかの子状類との格差、これを地域価という言い方でさせていただきますが、これを求めまして、その格差を「その他の比準割合」として適用する方法のことをいいます。
 そうすると、子状類も状況類似と解釈されると、評価基準では標準宅地の選定をしなければなりません。さらに、地域価を求める場合、実務上子状類に比準宅地を選定しなければなりません。そうすると、この比準宅地はいわば子状類の標準宅地であるので評価基準では鑑定評価をしなければならないのではないかということになりますので、十分検討が必要であると思います。
 次の資料27お願いします。
 状況類似地区区分の問題解決のための解決策に、道路価方式・地域価方式等の採用ということがありますが、十分検討のうえ、先ほど申したとおり、評価基準の改正ないしは通知等による市町村への技術支援を行うことを提案します。
 道路価・地域価の方式の導入によって、同一状況類似内での宅地間での格差、それから地域間における格差の解消に有力な手段となりますし、市街地宅地評価法に移行するよりは、作業量等の負担面が、比較的軽く導入ができるというメリットがあるかと思います。
 なお、評価基準の改正や通知等により、状況類似地区区分の中に利用状況による地区区分、それと、宅地の比準表のうち、「その他の比準割合」において、道路価とか地域価の記述があることによって、審査申出等に対して明確な根拠が持てることになります。
 次、資料28お願いします。
 2点目、この標準宅地の選定に関する課題に対しては、鑑定評価の活用方法をもう少し整理する必要があります。ちょっとここで、時間もないんですけれども、鑑定評価の活用について説明します。鑑定評価結果で求められる価格には、2つあります。
 1つは、鑑定評価額。これは、標準宅地そのものの価格ということで、標準地比準方式の原則でいくと、この価格を「その他の宅地評価法」では活用することになります。
 もう1つは、標準価格、これは標準地画地の価格ということで、市街地宅地評価法において活用する価格です。標準的画地なんですけれども、これは鑑定評価上の近隣地域において標準的な土地に係る価格形成要因を具備する画地で、これは不動産鑑定士が設定する画地であります。
 なお、採用する価格は、原則、鑑定評価額ですが、鑑定評価上、標準宅地に何らかの極端な補正がなされており、かつ、その他の画地の評価に不均衡を及ぼすような場合に限って、その標準価格を採用することができるということになっていますが、あくまで例外です。
 次、お願いします。
 資料29、標準宅地の選定においては、まずは、標準宅地の適正な時価評定における鑑定評価の活用にあたり、鑑定評価額又は標準価格の活用方法について、もう一度整理する必要があります。平成6年から、鑑定評価の導入がはかられ何回か評価替えを経ておりますので、ここで、いま一度、基本にたちかえり、その活用方法について検討し、整理した上で、適用実例等とともに技術支援ということで市町村に提示することを提案します。
 この鑑定評価額等の活用についての提案ということなんですけれども、現在、この標準価格を活用している市町村、先ほど間野パネリストのところでも標準価格というお話だったんですけれども、結局、選定する標準宅地自体にばらつきがあって標準宅地の選定が非常に難しいということで、標準価格を使うことによって、不動産鑑定士の標準的画地の判断を活用する方法もあると思います。
 また、標準価格を採用することにより、全体的な地域のバランスをとりたいがために、この標準価格を使っているですとか、宅地の比準表にかえて画地計算法を適用している場合にはどうしても標準価格を採用することになる訳です。
 いずれにしても、「その他の宅地評価法」は、評価基準上の標準地比準方式であるとの原点に立って、市街地宅地評価法の手法の一部を導入することの検討が必要であり、検討した成果を、活用実例とともに技術支援として市町村に提示していくことが必要と思います。
 次、資料30お願いします。
 その他の比準割合に関することですけれども、ここでは、その他の比準割合の充実等ということで、2点の提案がございます。
 1つは、その他の比準割合の充実を図るということで、やはり、これは、現行評価基準においては、その他の比準割合の定めが、接面街路との関係や街路の状況のみの記述なので、もう少し具体的な要因の例が欲しいところです。
 ただ、一方では、自由度がありますので厳密な適用まで求められない地域の市町村では、現行のほうがいいんだよという意見もあるかと思います。特に、その街路条件や無道路地補正とか、価格に大きく影響するような要因については、何らかの具体的な列挙があればというところであります。
 2点目は、宅地の比準表にかえて画地計算法の導入及び運用上の留意点について検討すべきであると思います。「その他の宅地評価法」は、標準地比準方式なので、市街地宅地評価法とは文化が違いますので、十分な検討をすることで画地計算法やこれの準用みたいなことが容認されればと思っているところであります。
 特に、電算システムが、どうしても硬直的にならざるを得ないので、画地計算法を適用せざるを得ないという実情があるかと思います。
 いずれにしても、このようなその他の比準割合の充実等ということで、柔軟な運用ができれば、より精度の高い評価が可能かなということでご提案させていただきました。
【大橋】 ありがとうございます。
 かなり具体的、広範な提案をいただいたかと思いますけれども、前川先生、今の件で少しコメントいただければと思います。
【前川】 ただいまの稲葉報告での問題解決のための主な提案は、状況類似地区に関する課題に関しては道路価・地域価等を採用することと、それから標準宅地選定に関する課題については鑑定評価等の活用方法の考え方・実例等を示すこと、それからその他比準割合については充実を図っていくという提案がなされました。
 私からは、それについて、先ほど言ったコスト効果といったような点から、同じことを繰り返すかもしれませんけれども、少し整理してみたいと思います。
 道路価方式とか地域価方式の導入というのは、市街地宅地評価法への移行、あるいは状況類似地区の細分化に対する代替的手法として提案されているわけです。道路価方式は、厳格に適用した場合、市街地宅地評価法と同じくなるわけですが、市街地宅地評価法は、各道路に路線価をつけるのに対して、提案されている道路価方式では、標準宅地に対する比準割合が示されるということになります。
 この点で、市街地宅地評価法に比べて柔軟な適用が可能となる。そういう意味で、コストといった面から、優れているかもしれない。例えば、すべての道路に道路価の比準割合の形をつけるのでなくて、標準宅地と著しく条件が異なるものだけに、そういったものを適用するということも考えられる。すべてに道路価をつけるということになれば、比較的課税コストは大きくなる可能性はあります。
 それから、地域価方式に関しては、状況類似地区の細分化のコストと効果を比較して、導入を検討すべきだろう。状況類似地区を細分化した場合には、標準宅地が増えることに伴って、課税のコストが大きくなるだろう。地域価方式は、新たな標準宅地が増えるものでないので、適切に比準割合を定めることができれば、地域を細分化したものとほぼ同じ効果が得られるだろうと思います。
 道路価、地域価を、どちらを適用したほうがよいか、あるいは市街地宅地評価法への移行、状況類似地区への細分化を行ったほうがよいかは、これは先ほどの神戸市さんの報告、高崎市さんの報告でもあったように、地域によって異なると思います。
 例えば、状況類似地区で一定規模の住宅開発が行われたとすれば、道路価方式を導入するよりも地域価方式を適用したほうが比準割合を設定しやすいかもしれない。宅地開発により地域が徐々に市街地として成熟しているのであれば、市街地宅地評価法への移行、あるいは状況類似地域の細分化をしても、課税宅地1ポイント当たりの課税コストといった面から考えては、そんなに大きくならない可能性があると、そのような方向で考えることも考えられる。
 熟成度の程度によって、また市街地宅地評価法への移行とか、細分化が選択されるのであろうということです。
 また、地域という観点よりも、接面道路により宅地の質が決まっている地域においては、地域価方式より道路価方式を適用するほうが望ましいだろうということです。
 課税の公平性の観点から考えれば、状況類似地区境における評価の格差、これは避けなければならないことだろうということだと思います。
 これが、地域価とか道路価の導入によって解決できるかどうかを検討するということになると思います。
 標準宅地の困難性については、稲葉報告のように柔軟な対応をすることが望ましいと思います。どういう形をとったとしてもという言い方悪いですけれども、適切に評価、比準評価し、比準がなされればいいんだろうという気がいたします。
 適切な比準が可能かどうかが問題になってくるわけですが、比準割合を充実させることが非常に重要であると思います。比準を簡素化するということ、あるいは行政コストを下げるということは重要ですが、公平性を阻害するのであれば、そういった簡素な比準表は問題になってくるんだろう。そういう意味では、コスト、公平性、簡素といった面から、どういったものを選択するかが決まってくるのだろうと思います。
 したがって、自治体とか地区によって公平性の阻害の程度がおそらく異なるんだろうという意味では、各自治体が選択できるような形で比準割合を設けることも考えられるのではないか。統一的に示すのではなくて、メニューを示すということも考えられる。都市近郊で市街地が進んでいる地域、農村集落、別荘の混在する地域など、そういった比準表割合も変えて、こういった事例ではこうであろうということを示すことも考えられると思いました。
 以上です。
【大橋】ありがとうございます。

4.対応策の実現に向けて

【大橋】 稲葉さん、それから前川先生、今ご指摘をいただいた、提案ということでありますけれども、だれに向けての提案かというときに、やはり、とみに、これは総務省が考えなければいけない問題が多く含まれているのではないかと思います。
 後ほど、山下さん、それから間野さんのほうにも少しコメントをいただきたいと思いますが、まずは、総務省の立場として、今たくさんいただいた提案について、そのお考え方、少し話をしていただければと思います。
【深澤】 はい。たくさんいただいて混乱する部分もあるんですけれども、要するに、 「その他の宅地評価法」の原則的、基本的な考え方である標準地比準方式、この原則を、やはり、現状を踏まえた上で、今、改めて、考え方の整理をし直す必要があるのではないかというご指摘だと思います。いろいろありますけれども、大きな、我々としてショックなのは、やはり、そこの点だと思います。
 そうした基本的な哲学といいますか、考え方を整理した上で、必要に応じて、評価基準の改正を行ったり、あるいは技術的支援を出していくということだろうと思います。
 ただ、我々、その際に十分注意しなくちゃいけないと思いますのは、評価基準にきちんと書き込むということを、必ずしも、全部の市町村が望まない場合があったりもいたします。例えば、裁判などやっていまして、あまり妙なことを書かれると、今やっている裁判負けてしまうみたいなこともあったりいたしますので、そういうことのないようにといいますか、そういうことにも配慮しながらやっていかなくちゃいけない。先ほど、私のほうのアンケートの話にもありましたけれども、あまりいじってくれるなという団体も結構あるわけでして、その辺も考えていかなくちゃいけない。
 しかし、その原則的な、さっきの考え方の整理というのは、今日の議論をおうかがいしていましても、この時点で振り返ってみる必要があるのだろうと思います。その場合には、やはりフロアーの皆様方、市町村の方々、有識者の方々の意見を十分に聞きながら、これを反映して検討していくという必要があろうかと思います。また、検討していくつもりでございます。その結果が、基準改正につながるのか、技術的支援で終わるのか、何もしないのか、それはまだわかりませんけれども、いずれ、現時点で何らかの検討を始めたいというふうには考えております。
【大橋】 ありがとうございます。
 コーディネーターというのは因果なもので、時計ばかりが気になります。そろそろまとめていかなくちゃいけませんが、先ほどの提案、それから今の総務省の話を踏まえてでも、踏まえなくてもいいんですけれども、山下さんと間野さんのほうに、もう一言、何かコメントをいただければと思うんですけれども、いかがでしょう。
【山下】 神戸市です。
 今日のお話を聞いていまして、まず道路価方式ですが、神戸市や高崎市さんみたいに市街化区域とか調整区域がはっきり設定されているところについては、状類の詳細区分といった対応はできるとは思いますが、都市計画区域がそもそも設定されていないとか、未線引きであるところについては、さほど強い宅地化の制限があるわけでもなくて、何となく宅地化もできるといったところについては、状類を詳細化してとか、そういったことはなかなか難しいと思いますので。多分、そういった土地というのは、価格に占める接道条件の割合は高いのではないかと思いますので、そういったところに道路価方式を使うのは、良い方法ではないかと感じました。
 それから、財政事情等からむやみに状況類似地区を区分することはできないという事情のある課税団体については、地域価方式でも、なかなか良い方式ではないかなと感じました。
 それから、鑑定評価の活用の話ですが、その他宅地評価法では鑑定評価額、標準宅地そのものの値段を出すということになっていますが鑑定評価額そのものを、そのまま使うというのは、固定資産税評価上使い勝手が悪いところもあります。あくまで標準地比準方式をとるわけですから、比準する際に、さほど不都合がないような形で、その鑑定評価額をどういった形で修正したら、私ども市町村が使えるかというアドバイスがいただければありがたいと思います。
 宅地の比準表につきましても、私ども、その他所要の補正ということで、いろいろ工夫しておりますが、具体的にこういった方法があって、これは有効ではないか、こういった条件、こういう価格条件についてはこういった補正もあり得るといったアドバイスがいただければありがたいと思います。
 今日のお話を聞いて、そういった方向、アドバイスが将来いただけるかもしれないと期待しておりますので、よろしくお願いします。
【大橋】 間野さん。
【間野】 課題に対します対応策でございますが、まず、道路価・地域価方式も適正な評価手法であるならば、山間部を有している合併町村で適用すべきかどうかの検討を行いたいと思います。
 次に、道路価・地域価に限らず、「その他の宅地評価法」に一部市街地宅地評価法の手法を導入することは適切であると公式に認めてほしいと思います。
 具体的に申しますと、標準宅地の適正な時価に標準価格を採用する場合ですが、現在では、標準宅地に何らかの極端な補正がなされており、かつ、その他の画地の評価に不均衡を及ぼすような場合に限って標準価格の採用が認められておりますが、宅地の比準表で画地計算法の準用適用も合理性があるものと整理してほしいと思います。
 以上でございます。
【大橋】 ありがとうございました。

おわりに

【大橋】 駆け足になってしまいましたけれども、ひとまず、そろそろ店じまいをしなければならない時間になりました。パネリストの皆さん、本当にありがとうございました。
 私も、今日はコーディネーターの立場で、ここに参加させてもらっておりましたけれども、話そのもの、大変おもしろく聞いておりましたし、また、単におもしろいというだけではなくて、我々総務省として考えていかなくちゃいけないこと、多々、示唆いただいたものだと思います。
 皆様方の中にも、多数の方々が、固定資産税の担当で、自治体の中で仕事されていらっしゃる方々、いらっしゃると思います。今日の話が、多少なりとも、そのお役に立つようなことがあれば幸いでございます。長い時間、ありがとうございました。これにてパネルディスカッションは終了とさせていただきたいと思います。